いま、様々な分野において加速的に技術革新が遂げられ、時代は第三次産業革命を迎えている。常に時代の後方に構えてきた我われ建築・建設業界にとって、目まぐるしく変わりゆく現代のライフスタイルの行く先を、的確に見通すことは決して容易ではない。
そもそも建築とは、その時代の文化や経済、価値観など様々な無形を素に具現化されたものである。とりわけ、現在の多様化・分散化し続ける人々の価値観は、「永く在り続けるー」「普遍的なー」という、もはや根本的な建築概念でさえも覆えしつつあり、その在り方は益々捉えにくいもへと変化している。
我われ建築に係わる者として、また設計事務所の使命として、創り出した建築が社会的な価値をもち、その役割を充分に果たすべく、幾つかの要点を掲げながら、この難解なテーマへ立ち向かうことをここに表明したい。
松本 健志
近頃は建築の分野であっても、何かとクライアントから教えていただく機会が増えている。情報化が進んでいることもそうだが、明らかにクライアント自身の見聞が深まってきている。そんな彼らの要望に、常に柔軟かつ包括的な姿勢で向き合い、ぜひとも鮮やかな解を導きたい。明快な解というのは、単に奇をてらうのではなく、充分なコミュニケーションを経て、得られた相手の想像を少し超えたところに必ずあるものだ。
高度な建築・建築設計とは、ひとつの結論を導き出すために、幾つもの要素が複合的に解かれている。例えば、建物を支える柱や梁などは、構造材としての主たる役割だけに終わらせてはならない。その造形はどうか、空間や人々に与える影響はどうか、設備やエネルギー環境の側面から役割を兼ねられないか、など様々な模索が繰り広げられることが大切である。この意識こそ、目指す建築の在り方へ通じていると信じている。
ある巨匠は " 建築(の魂)はディティール(=細部)に宿る " と言い、またある巨匠は " 建築のモジュールは1ミリかそれ以下だ " と言い切った。まったく同感だ。我われもプロジェクトの冒頭で建物のテーマやコンセプトを掲げるときには、同時にディティールまでイメージすることを心掛けている。最終的に竣工したその建物には、意図が込められていないディティールは、ひとつたりとも残されてはならない。
モダニズムにミニマリズム、現代の建物は無機質な方向へと移り変わり、自身もその潮流を受け入れているひとりだ。しかしながら、その流れに気を取られるあまり、情緒が一切取り払われてしまった建築は、世代を跨ぐほどの大きな時間の流れに耐えることは出来ない。意図して土着的である必要もないが、少なくとも人々の五感に訴える建築でなければ、永く人々に認識され続けることは難しい。ある研究では、視覚に次いで嗅覚(匂い)もまた情緒と深く関係しているらしい。 " 匂い立つほどの造形美 " のほかにも、古来の木造神殿のように " 薫る建築 " という在り方もまた興味深い。
私共設計事務所では、ご相談・ご依頼いただく設計デザイン業務内容につきまして、建物用途・規模・構造など特に制限なく、幅広く承っております。
※一部の特定用途(新築マンション、ビジネスホテル、総合病院)に限りましてはご遠慮頂いております。