建築へのこだわり

もくじ

理念

  • 01 価値観と建物

    小学生の頃、街を歩きながら 「建物って、なんであんなカタチをしているんだろう」「どういう考えや理由があって決められているんだろう」 と、興味をもった。それから今日まで約25年この道一筋で歩み続け、朧気ながら 『 建物とは = 建て主の価値観が具現化されたもの 』 という答えを見出しつつある。住宅ならば居住者個人の価値観に、オフィスビルならば法人理念や役員らの価値観に、それぞれ基づきながら最終的に出来上がっているものだろう。もしかすると、およそ一生に一度の機会でもある建築行為は、生涯を掛けた「人生観の具現化 」 と言えるのかもしれない。
    とはいえ、人や地域コミュニティの数だけ価値観がある。(上から順に建築行為における優先順位を示す)

    一、建て主の価値観(出資者)
    一、    〃   (入居者)
    一、世間一般の価値観(ローカル)
    一、    〃    (グローバル)
    一、建築家の価値観

    建築設計に携わる私共の価値観は優先順位の最下位にありながら、少なからず専門家の立場として 『 建築家自身の価値観に従って「建築の在り方」を追及する 』 という理念を掲げて建て主の価値観に向き合うことにしている。日頃から様々な方からご相談をいただくが、そもそも価値観に正解も不正解もない。結果として、私共と相談者双方の価値観が一致すれば、いよいよ建築PROJECTとしてスタートする。

  • 02 地球に建てる

    現在の施工技術をもってすれば、いま新築された建物はこの先50~100年程その場所に佇むことになる。耐用年数が延びたことは、ともすれば時代にとり残された産物にもなりかねない。したがって只今の設計では、建築が残存するであろうタイムスパンを想定した上で、近未来の人類文明をある程度予測しておくことも求められる。例えば100年後、個人的には宇宙科学や量子分野が更に発展して地球外への視野が拡がり、人類の居住区も太陽系のスケールに及んでいるだろうと予測する。ちなみに、すでに我が家では週末にベランダで布団を干すことを”地球人の嗜み”と、呼んでいる。 

  • 03 質量を感じたい

    まだ20代の頃に鉄骨造の製品検査のため鉄工所へ足を運んだ時である。普段見ることのない人の背丈ほどのある巨大な鉄骨が検査ヤードへ幾つも敷き並べられた光景は圧巻だった。鉄骨の断面を目の前にすると不思議と何かに引きつけられている感覚がして、同時に「建築とはコレなのかもしれない」と直感した。以降、例えば一般的な木造平屋の小屋組みであっても、構造計算や耐震設計とは違った次元で、木材の質量を感じさせようと意識して設計している。建材には、言葉ではうまく説明がつかない「質量の魅力」が秘められていると信じている。

  • 04 最少で最大を得る

    端的に、私という建築家はミニマリストでありモダニストである。かと言って、真っ白い壁や天井に囲まれた無機質な建築空間が好みなのかと尋ねられると、それほどでもない。設計の本質が合理的であることは勿論、柱1本を立てる場面でも多元的に解いて最大限の効果を得ようとする、この姿勢である。

  • 05 首尾一貫

    私は、自らを作家(=建築家)と名乗るのならば、モノづくりの一から十まで首尾一貫して関わなくちゃいけないものだと、勝手にそう思っている。ところが現実には、建築業界は土木に次いでつくり上げる規模が巨大で費やされる予算や時間、関わる人員が桁違いに多いことから、その意味で作家の介入をより難しいものにしている。私も下積み時代、作業効率が求められる組織設計事務所に在籍していた。そこではプロジェクトを縦割りにした首尾一貫の人員配置はなされず、部所ごとに横割り配置されたベルトコンベア方式であった。現在、アトリエ設計事務所を設立してからというもの、否が応でも首尾一貫(スタッフは自分ひとりなので)。プロジェクトとをまとめ上げた時の充実感は、それはそれは大きく違う。

設計

  • 06 パッシブとアクティブ

    パッシブ建築・・・主に自然のエネルギーを活用する手法
    アクティブ建築・・・機械の力を積極的に使う手法

    最近ではパッシブ建築の在り方が一目置かれている。私に言わせればアマゾンの先住民のような暮らしこそが本来100%のパッシブであって、そこからすれば日本の新興住宅地に建つ1件の建売住宅のそれは数%のパッシブに過ぎない。消費経済の世の中、アマゾンの暮らしは今さら出来ないため、私が理想として掲げる住宅建築は、太陽光などで自然エネルギーを100%用いて、高効率の設備機器を稼動させる手法。尚且つ、それら機器類の稼動時間が年間を通じて極力抑えられるように、建築本体の断熱や窓の取り方などを工夫して設計された、パッシブとアクティブのハイブリット型。

  • 07 大きい庇

    住宅を建てるときには庇(ひさし)や軒をより大きく出すようにしている。最近の夏場の強い日差しをペアガラスとカーテンだけで凌ぐには限界がある。予算的に難しいのなら、玄関先やリビングテラスなど部分的でもよい。しかし、室内環境をエアコン電気代のランニングコストに頼っぱなしの建物がどれほど不効率かよく考えてもらいたい。止められない気候変動を前に、これからはツルンとしたミニマルな箱型建築ではとても対応しきれない。室内への日射を確実に遮ることができる彫りの深い建築こそ、これからのスタイルなのかもしれない。

  • 08 気密性と開放性

    いま世界的に省エネルギーが唱えられ、それに伴って住環境や住宅性能の評価指針には「高気密&高断熱」が掲げられている。日本国内でも同様なのだが、私はその潮流に疑問を感じている。乾燥した欧米の気候とは違い、高温多湿の日本では先人たちが木造建築に障子や襖、格子といった「適度な隙間」を上手く設けて建物の呼吸を助けてきた。その意味では息苦しささえ覚える。もし空調エネルギー効率を問うのであれば、例えば、建物中央の部屋を最も高気密にしておいて、その部屋から外側の部屋に向かって徐々に気密性を解いてゆく計画があってもいいだろう。例えば、リビングの大開口サッシをレバー操作ひとつで全開放させることで、建物全体が高気密から一転、オープン住宅へ切り替わる計画だってアリかもしれない。いずれにしても外壁を高気密の殻で覆い固めただけの評価基準というのは、なんとも芸も風情もない話である。

  • 09 プランではなく断面

    クライアントを含め一般の多くの方々は「プラン」や「間取り」でを見て、その建物の良し悪しを判断する。しかし我々専門家らは、建築空間をつくるカギが、実は断面(高さ方向)に隠されていることをよく理解している。例えば欧州旅行に行った方などよく思い出してもらいたい。古い大聖堂などの教会建築は平面だけを見ればシンプルなシンメトリーのカタチをしているが、断面をみれば、極端に絞り込まれたエントランスを通り抜けると、その先には圧倒的な天井の高さの礼拝堂が待ち受ける。(天井面や窓にはフレスコ画、ステンドグラスの美しい装飾も)。我々は、たとえ真四角なプランを依頼されてたとしても、そこへ断面の変化を与えてドラマチックな空間を創り出す、その責務がある。

  • 10 打合せ議事録

    クライアントとの打合せ議事録をナメてはいけない。単なる記録用紙ではない。施主の目を見ながら残した記録。建築家=伊東豊雄さんの言葉をお借りすれば、「建築の答えは、施主が要求する線を伸ばしていった先の、相手の創造を少しだけ超えたところに在る」という。つまり議事録とは、クライアントの要求が示された重要な道標であり、それらを正しく捉えてはじめて答えに辿りつけるのだ。何も知らない周りからは "建築家がまた突拍子もない建物を建てている" と、よく誤解されるが、そうではない。建築月刊誌の巻頭でどなたかが設計された輝かしい作品を拝見した時、私はいつも "また上手い答えに辿り着いたもんだなぁ" という見方をしている。

  • 11 創造する時間

    本来、デザインなどクリエイションの場において、時間の制限を設けてしまっては、つまらない。建築設計も同様で、特に締切りや竣工期日の条件がない場合には、事前にクライアントの了承を得た上で、自分の納得がいくまで時間を掛けて課題に向き合いたい。

  • 12 模型づくり

    3次元の建築をつくる上で、設計図やCGなどの2次元情報だけであらかじめ空間を認識しようというのは、少々無理がある。設計の過程で模型をつくりながら、クライアントと一緒に空間のイメージを共有したい。模型の種類には以下様々ある。

    ・スタディ模型 : 企画や基本設計時に建物ボリュームや空間構成などの概略を把握するための簡易模型。
    ・構造模型 : 構造部材だけを模型として作り、構造美を追及する。
    ・原寸模型 : 施工者と工事手順や納まりなどを確認するための詳細模型。
    ・完成模型 : 竣工した後にもディスプレイできるリアル模型。

  • 13 Detail

    「建築はDetailに宿る」とは、かつて巨匠らの金言。仰る通り空間はDetailによって決まってくる。設計作業では、建築をひとつ造り上げるために無数のDetailを決定して設計図に描き示さなければならず、そのとき 「一点物の建築」を目指す当事務所ではDetailの使い回しを許してはいない。更には、完成した建築に設計担当者自らが把握していないDetailをひとつたりとも残してはならないと、事務所内で厳しく定めている。

  • 14 既製品の役割

    そもそも国内に出回るあらゆる既製品の存在は、施主やユーザーにしてみれば安価で一定の性能が手に入り、さらに不具合が起こればメーカーの短年保証も付いているメリットばかり。しかし何も無いところから建築を創造していく我々からすれば、突如、異物が放り込まれたような感覚で、既製品が嵌め込まれたそこの部分だけは発想力や思考力が欠落してしまい "得体の知れない不味い存在"として捉えられている。もし私が既製品を採用する場合には、必ずプロセスを踏むことにしている。まずはじめにオリジナルをゼロから創造すること。その上でそれを製作する予算が見合わなければ、やむを得ず既製品を探して採用する、といった流れだ。また既製品を選ぶポイントは "仰々しくいかにも既製品っぽいモノ" は最初に選択肢から外し、まるで今回の建物のために "特注されたモノ" として見てとれる、違和感なく空間にしっくり溶け込む製品を選ぶことがコツとなる。

  • 15 色彩計画

    理想なのは、建材や素材そのものの色だけで、その建築の色彩が構成されていることだろう。例えば塗料の役割、それを施す目的というのは色彩を与えることが主ではなく、建材を大気や紫外線などの風化から守る保護膜を形成するためのものだと、私は認識している。すなわち、塗膜によって下地の建材を覆い隠すことなく出来る限りクリアで、尚且つ塗ってあることすら気づかない程の存在であって欲しい。素焼き煉瓦にべっとりとペンキを塗ってみたり、コンクリート打ち放し全面にわたって擬似的なタイルを張りまわす装飾などは、自分が目指すところではない。

  • 16 外観と内観

    私自身の設計手法に拠るところでもあるが、公共性が高い建築ならば外観の見栄えや街の景観などに配慮しながら外観と内観をほぼ同時に決めてゆく。一方、住宅に関して言えば、よっぽど閑静な住宅街でもない限り、外観はまったく気にしない。例えば私が山を切り拓いて自邸を建てる場合には、外観とは森全体のことである。それよりも優先されるのは室内空間。自分がソファに座って窓の外を眺めた時に、いかに心地良く、いかに安らげる空間にできるのか、ということに気を配る。

  • 17 木製建具

    インテリアにおいて木製建具は重要な要素のひとつであり、下記の要点と手順をおさえる。
    ① 扉材と枠材を選ぶ/ 「床材」と「置き家具&カーテン」とのコントラスト、バランスに最も注意を払う。
    ② 建具金物を選ぶ/ デザインは装飾美よりもシンプルな機能美が優先される。
    ③ Detailを決める/ 面材だけでもフラッシュ、框、スリット、モール、繰形などデザイン要素は多い。

    そして私の場合はもうひとつだけ、こだわりがある。
    ④ 五感による確認/ 扉を吊り込んだ際に、開閉した時の持ち手が感じる重量感と、「カチャッ」「バタンッ」という音の具合いなど、自身の感覚によって最終調整を行う。

意識

  • 18 角(かど)で見分ける

    建築の見分け方のひとつに、「角」によって、品格やグレードの違いを見分けることができる。我々も設計する際に、この建物を「軽く見せたいのか」「重く見せたいのか」「高価なのか」「安価なのか」「品格をもたせたいのか」など、その狙いを角に仕込む。
    ・建物外壁の角
    ・外構アプローチ階段床の角
    ・柱の角
    ・玄関の上り框(あがりかまち)の角
    ・和室の床の間、床框(とこがまち)の角

    品格があって高価な角というのは、無垢材(むくざい)とよばれるひとつの大きな材料が丸々1体(たい)使われて角が形成されている。一方、安価な角というのは薄い2枚の材料が90度に突き付けられて形成された、いわゆる「ハリボテ」である。およそ分厚く質量が大きい材料で納めた場合は「重く」見え、逆に薄く質量が小さい材料では「軽く」見える。我々の脳というのは、視界に入った物質の特性を、瞬間的に端部や角を注視して、より正確な情報を得ているのかもしれない。つまり建物や空間の品格は、ヒトの感覚に拠るところで、建物の細部(Detail)に宿っていると言えよう。例えば玄関アプローチの階段では、薄いタイル張り仕上げにしてしまうと、あらゆる角にタイルの薄っぺらい断面が見えてしまい角の魅せ方としてはしっくりこない。それよりもコンクリートで階段全体を一体的に成形するか、コストが許せば大きな1枚の分厚い石を段板に設けて角を削り出す。不思議なことに、たかだかこれだけの違いで、およそ建売住宅と寺社仏閣くらい品格に差が現われる。

姿勢

  • 19 職人と向き合う

    職人には敵わない。なんてったって最後に作り上げるのは職人の腕。対するコチラは指示を出すところまで。最終的に職人が "OKこれなら作れるよ" と言ってくれるまで、永遠に打合せが続く。最近の建設現場には様々な業種(15〜20種以上)の職人が出入りしていて、各職人が一人前に成るまでに、その道一筋最低15年のキャリアが必要だと言われている。本来、何でも自分で造りたい私の性格からすると、もしも自分の寿命が300歳くらいあったならば、全ての職人の能力を身につけて"職人怪獣"になって、最初から最後までひとつの建築を自ら建ててみたいと思う…。

現場

  • 20 現場への熱意

    我々、建築に携わる者の仕事には、設計図を描き終えた後に続く業務があり「工事監理業務」と呼ばれる。これは、工事がチキンと設計図通りに進められているかどうかを竣工するまでの間、現場に通い詰めて監理するもの。現場の最高責任者である現場監督さんと対面して指示を出す立場となる。この時に現場への指示の細やかさや熱量、どれだけ多く現場へ足を運んだかによって、建築の出来がまったく別モノになる。例えば、設計図が料理のレシピだったとしよう。そのレシピには食材と大まかな作り方の手順くらいしか書かれていない。料理人が一度作ったことがあるものなら心配いらないだろうが、初めて聞くオリジナル料理だったならばどうだろうか…。料理はすぐに胃の中へ落ちてしまうが、建築は100年近くその場所に立ち続ける。それ程のプレッシャーを背負いながら根気よく現場と向き合わなければならない。

その他

  • 21 施工者の選び方

    施工者を選ぶ際の典型例として、
    ① 施主の親や親族、友人などの知り合いの工務店
    ② 地元の工務店といえばここ、の知名度だけで選んだ工務店
    ③ 施主自らの知見や調査で探し出してきた工務店
    ④ 施主自身はまったく当てが無いので、設計者から紹介された工務店

    ひとことで言えば "施主の要望を漏れなく実現しようとする意識が高く、それでいて工務店自身の利益は程々でよい、と気持ち良く割り切っている施工者" を選ぶことが一番。しかしそうそう簡単には見つからない。私の経験上、もし設計者が建設予定エリアの施工者事情に精通しているならば④が最短コースで確実。③でも良い。自分で選んだのだから後悔もない。念のため設計者に査定してもらうと安心。①と②は人付き合いを大切にする施主の場合に多いが、"意識の高さ" の面ではほとんどバクチに近い。不具合が生じた時や予期せずお金が絡んで疑念を抱いた時に、真正面から言及しにくく、近しい間柄が逆に裏目に出るケースが多い。

  • 22 建築家と設計士

    いま自身の中に「建築家」と「設計士」の二人の自分が常に同居している。設計士の自分は、国家資格(一級)を有し建築基準法に則って業務をそつなくこなす。一方、建築家の自分は、右脳全開で鮮やかに建築、造形、空間の答えを導き出す。依頼されたプロジェクトに応じて二人が絶妙なバランスで前に出たり引っ込んだり。そして両者を支えているのは、設計や建材、現場技術などの「知識」。建築士は一定のところに留まるが、建築家は歳を重ねるごとに、より深みを増してゆく。

  • 23 アトリエとは

    以前に建築学科の学生からの質問で、一般的な設計事務所とアトリエ設計事務所の違いを尋ねられたが、明確な定義はきっとない。先日、大手組織設計事務所からタイアップ体制で仕事のオファーを頂き、同じ建物の設計を一緒に進めていた時だった。自分が普段、設計や検討に費やす時間と明らかな差があり、組織によるマンパワーを差引いたとしても、私はこれの3〜5倍程の時間を掛けていることに気付かされた。その時に "自分はアトリエ事務所側かも…" と初めて感じた。

  • 24 2%の世界

    25年前、学生の頃に恩師(建築家:桂英昭先生)からの言葉で "日本国内でそれぞれの街並みを見渡してみると、本当にこだわって建てている建物はたった2%しかない"と教えてくださった。つまり、残りの98%はただただ消費経済の気紛れなのか…と愕然とした。以来、自分は2%側に身を置いて建築と向き合っていくことに決めた。

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