長崎県は五島列島。その南方に位置する五島最大の島、福江島が計画地となった。気候は九州本土と変わらず、しかし、ひとたび台風が上陸すれば内地では経験することがない程の強風に晒されることから、島のどの建物も「庇の出」は一様に抑えられている。
そんな地元のご出身で、現地で工務店を経営するクライアントから、永らくの想い憧れを込めて『 大きな庇をもつ住まい 』というテーマを預かった。
跳ね出すような大屋根を建屋本体と南側テラス下屋の2段に構え、そのうち下屋は強い吹上げを考慮し耐力壁(筋交い)をより多く配分。建屋本体は平屋のワンルームに大きく1枚の屋根を架け、年に数回、盆や正月に各地から親族や友人らが一斉に集まる場となることから、場面に応じて障子建具で空間を曖昧に仕切り、多様な使い勝手に追従できるプランとした。
また本計画はコロナ禍に発足し、竣工を迎えた特異なPROJECTとなった。
最も苦戦したことは、着工後に感染が酷く蔓延し現場への渡航制限が掛かったこと。自身の現場監理体制も、いわゆる「ペーパー監理」「スマート監理」を強いられ、唯一、施工中に現場へ向かえたのは塗装色確認の1度きり。職人と直接対話を繰り返しながらすべてのDetailを落とし込んでいく本来の監理スタイルは最後まで叶うことはなかった。しかしながら、全工程を通じて必死に設計意図を汲んで頂いた現場監督、職人の方々にはこの場を借りて御礼申し上げたい。大変貴重な経験となった。 (松本健志)
photo:針金洋介