2021.6.27
避雷針
学生の頃のエピソード・・・
その日、いつものように
学食で昼食を食べ終えた先生と我々研究生一同は、エアコンもない暑苦しい部屋へ
ぞろぞろと戻ってきた。
8畳足らずの研究室に、研究生(M2、M1、4年次、総勢で8~9名、当時私は4年次)が
先生を取り囲むように肩を寄せて着席した。
どっかりと腰を下ろした先生は、おもむろに煙草に火をつけた。
ふぅ~っとひと息つかれて、今日のように初夏の晴れ渡った窓の向こうを遠く見つめながら
突如、我々学生たちへこう問いかけた。
先『 ・・・おまえら、あの避雷針のてっぺんに止まっているカラスが見えるか? 』
『 あのカラスがどうやって止まっているか、ひとりづつ説明してみろ 』
学『 ・・・・・ 』
研究室から見える窓の向こう50~60M程先の建物の屋上(塔屋)に立つ避雷針の先端に
一羽のカラスが止まっていた。
50M以上も先にあるので、カラスが止まっているシルエットまではわかるものの、
避雷針の頂部(おそらく尖った形状)にカラスの足がどう止まっているのか、
細部までは誰にも見えない。
突然の質問に、みな一斉に緊張が走った。
※皆さんも一緒に想像の中で考えてもらいたい。いまだ誰にも正解はわからない。
学生A『 きっとこうです・・・ 』
(突先の両側面から挟み込むように右足、左足とワシ掴みして止まっている)
学生B『 いやいや、きっとこうです・・・ 』
(女性が両足を揃えて腰掛けるように、カラスも両足を揃えて、突先の片側面からワシ掴みしている)
学生C『 いやいやいや、きっとこうです・・・ 』
(右足は側面からワシ掴み、左足は皿の様に「パー」に広げて突先に乗せている・・・)
もはや大喜利状態~(笑
さすがに学生Cの答えには、先生の顔も緩んだ(笑
結局、先生ご自身から答えはなかったものの(勿論、先生にも見えていないのでわからない)
最後に質問の意図をこう説明してくださった。
先『 建築とは、その細部(Detail)に神が宿っている 』 ←日頃から耳タコで仰られているコト
先『 将来おまえたちが、建築設計でメシを喰っていこうと思うのならば、日常の何気ない場面に
潜んでいるDetail(詳細/細部)に「これどうなってんだろう?」と興味を持つこと、
無意識にそこに気が付くことが出来る感覚が身についていなきゃいけないんだよ・・・ 』
先『 避雷針にカラスが止まっている光景を目にして、その足元(Detail)がどうなっているのか・・・
そこへ自然と意識を向けられることが大切なんだよ 』
まわりの研究生メンバーはどう受け止めたかわからないが
当時まだ20~21歳だった私は
「 なんて分かり易い教えなんだ・・・ 」
「 なんて親切な先生なんだ・・・ 」
と強く感銘を受けたものだ。
研究室に在籍したのは僅か1年間だけだったが、こんなエピソードは山ほどある。
先生と過ごした濃密な研究室での時間は、
間違いなくその後の自分の人生や生き方を決定づけた。
20年以上たった今でも、たまに避雷針を目にすると
当時の研究室の光景をふと思い出す。
補足)
当時、避雷針の頂部形状がどうなっていたのか定かではなく、尖っている形状を前提としたエピソード。
現在は避雷針の仕様や機能が多岐に渡り、突先がキノコ状に丸まったカタチの「落雷させない避雷針」
という製品などもある。←これならカラスもきっと乗れる